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 浅見が俺の答えを聞いてから麦茶のコップをその机に置き、「どうぞ」と微笑んだ。何も知らない結城部長は「ありがとう」と微笑み返す。……とは言っても本当に僅かなわからないような笑みだけど。初対面の人は無愛想だと思うだろう。浅見がどう思ったのかは知らないが。 「もう御一方(おひとかた)……係長ですかね? 席はどちらにしましょうか?」 「……係長は暑がりだから刑事課の部屋にいるみたいだ。ここは俺だけでいいよ」  俺の代わりに結城部長がそう答えると、浅見は「わかりました」とにっこり微笑んだ。 「それでは、柏倉部長。僕は一度刑事課の部屋に行って係長にお茶をお出ししてきます」  浅見は言わなくてもいいことをわざわざ言ってきた。コイツなら気を回して何も言わずにお茶を出しに行きそうなものを。何か考えてるのか? 少し身構えてしまう。  そして、浅見が耳打ちしてきた。 「……ボタンを一つしめた方が。見えてしまいます」  咄嗟に胸元を押さえた。  浅見の付けた印。しばらく消えそうにもない紅い痕。  結城部長に見られたら――――そう思うと怖かった。 「……結城部長、そういえば今回の事件なんですけど……」  さりげなく、わからないように、結城部長たちと会話をしながら一つYシャツのボタンを閉じる。  ドアの方に向かいながらチラリとこちらに視線を向けた浅見は、やっぱり凍るような冷たい目をしていた。
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