君の心に住む人は

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 それから一週間ほど経って、武川さん主催の俺たちの結婚祝いパーティーがいよいよ明日へと迫っていた。  警察とは本当にブラック企業そのもので、金曜日の夜でしかも大切な日を控えていたとしても関係なく残業があったりする。俺も例外じゃなく、金曜日午後9時現在も残業してる。夕方に逮捕事案があったのだ。  新婚旅行出発の数時間前まで残業していたという人もいるらしいから、それよりは幾分状況はいいけれど。 「浅見部長、こっちの書類は終わりました」  泉さんは、いつも目をしっかりと合わせて書類を渡してくる。今、部屋には俺と泉さんの2人きりだ。  この女性は俺のことを好きだというスタンスをあれからも崩すことはないが、仕事の手際はすこぶるいい。書類は書けるし喋りが上手で、気も強く、女性警察官としての素質は充分……それが俺の彼女に対する評価である。それ以外は何もない。周囲の評価によれば泉さんは“可愛い”らしいのだが、全く興味がないせいかそういう目で見たことはない。 「ありがとう、泉さん。一段落したから上がっていいよ」  俺がそう言って微笑むと、泉さんは少し肩をすくめた。 「浅見部長はまだ上がらないんですか? 何かやることがあるなら私もやりますけど」 「俺はもう少し書かなきゃならない書類がある。泉さんは明日の送致手続きをやってもらうから、今日はもう上がってよ」 「……明日、休むんですもんね」 「うん、土曜日だからね」  俺は冗談めかした口調でそう言った。  本来休みであるはずの土曜日なのに、休ませてくださいと上司にお願いしなくちゃならないおかしな仕事。 「ごめんね、休日の出勤お願いしちゃって」 「気にしないでください。私は独身ですから」  泉さんは微笑んでいるけれど、きっと皮肉というか、嫌味なんだと思った。 「……結婚式みたいなものだからね。さすがに休ませてもらうよ」  俺も微笑みながら嫌味で返す。泉さんはなぜかプッと吹き出した。 「……あー、やっぱり好きです。そういう笑顔でブラックな浅見部長」 「……君は変わってるね」  俺は思わずいつも微笑みを崩して苦笑いしてしまった。俺が頼さん以外にこんなにペースを崩されるのは稀だ。 「……ちょっとは興味持ってくれました?」 「少しね。でも僕は既婚者だから、これからもそういう目では絶対見ないよ」 「うわー、一途!! お相手が羨ましい」 「……わからないな。本当に何で僕を好きなのか。僕のことなんて何もわからないだろ?」  俺がそう言うと、泉さんは不思議そうに首を傾げた。 「好きになるのに理由はいらない、よくそう言いません? 確かに知らないこともたくさんありますけど、私は今見えてる浅見部長が好きですよ」  当たり前のようにそう言った彼女が、何だかとてもいい人に思えた。
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