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ローズママが「憎たらしいわねぇ!」とか何とか言って頼さんに絡んでいるのを見計らってなのか、タイミング良く武川さんがグラスを掲げて近寄ってきた。
「よっ、浅見。飲んでる?」
「はい。まだ1杯目ですけど」
「ママがこの調子じゃ誰が酒作るんだよって話だよね。セルフ?」
「あはは、確かに!!」
武川さんの至極真っ当な指摘に俺は笑ってしまった。
「武川さんはどうしてこの店を?」
「あー、浅見からしたらどういうことってなるよね。ちなみに俺もだから」
「え?」
「俺はよくわかんないんだけど、井上係長や結城部長に柏倉部長の喜ぶ店について聞いたらココだって言われてさ。柏倉部長たちには思い入れの強い店みたいよ? 殺人事件解決のキーになったとか何とかって。あとは結城部長の……」
「……おまえ、それは結城部長から話していいかの許可をもらったのか」
武川さんの話を遮るように凛とした声で割って入ってきたのは、小柄で、綺麗な顔をしているのに不機嫌そうに眉間にシワを寄せている男性だった。
「ゆっ、優弥っ……!!」
あからさまに武川さんは動揺している。
「元県警警察官の眞田優弥だ。この度はおめでとう」
「ありがとうございます」
俺がいつもどおりの笑みを浮かべると、眞田と名乗る男性は一つ息を吐いた。
「……噂には聞いていたが、本当に優秀そうだ。蒼とは全く違う。柏倉はいい伴侶を見つけたな」
「……なっ……一応俺は浅見の先輩なんだからね?! 面目丸つぶれでしょ!! ……そ、それに……」
「何だ」
「……俺はいい伴侶じゃないわけ?」
「おまえなぁ……そういう意味じゃないだろう」
こちらもまた主役の俺をそっちのけで2人の世界に入っていってしまった。どうやらこの眞田さんが武川さんのパートナーのようだ。……仲がいいことで、何よりだね。
俺はいつもの笑みを浮かべたまま、2人を見つめていた。すると途中で武川さんがハッとしたように俺に向き直った。
「ごっ、ごめんな!! いつもこんななんだよ、俺たち。一応これでもこの人は元上司、元相棒で今は俺の……恋人」
武川さんがそう言うと、先ほどまで眉間にシワを寄せていた眞田さんが頬を赤らめて俯いた。そういうところは可愛らしいところもあるようで。何だか頼さんみたいだ。
「柏倉部長と浅見の結婚で、俺も将来のことを考え直したよ。今までも事実婚みたいではあったんだけど。……俺、ちゃらんぽらんだけど、優弥とならちゃんと正式に結婚したいなって思うから」
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