2633人が本棚に入れています
本棚に追加
こんなことで不機嫌な様子を見せる訳にはいかない。抱えているモヤモヤは自分の中だけで処理しないと。
俺が頼さんを好きで、頼さんが俺を好きでいてくれるならそれでいい。頼さんが楽しめればいい。
頼さんの過去なんて気にしちゃいけないんだから――――。
「……いいえ、僕はお祝いしていただけるだけでも嬉しいですから」
そう言って笑顔を見せると、相川さんはグラスを煽りながらクスクスと可笑しそうに笑った。
何が可笑しいのやら。俺も笑顔を貼り付けたままグラスを煽った。この人には妙にペースを崩されてしまう。
ジントニックの爽やかな後味を感じながら、少しずつやってくるふわふわした酔いの感覚に身を任せた。居心地なんて悪くない。ほろ酔いで気持ちよくなって、この場を上手く立ち回ろう。
「……浅見くん。君、すごく生きづらいだろ?」
しっかりと見つめられて、そんなことを言われた。俺は目を見張った。
「我慢ばかりしてさ、嘘の自分を演じて。疲れるんじゃない?」
相川さんは微笑んだままだったけれど、少しだけ眉が心配そうに下がっていた。
どうしてこの人は初対面なのに俺のことが手に取るようにわかるのだろう。まるで、心の中が読めるみたいに――――。
……馬鹿馬鹿しい。そんなことある訳がない。当てずっぽうに適当なそれっぽいことを並べているだけに違いない。上手く受け流してしまえばいい。
「あははっ、面白いこと言いますね。占い師さんみたいだ」
「あー、胡散臭い? よく言われるよ」
「いいえ、何だか性格診断みたいで面白いです」
俺は無邪気に笑った。……つもりだった。
けれど相川さんは少し悲しげに微笑んで、一つ息を吐いた。
「……似てるんだよ、昔の俺に」
「え……?」
「似てるんだよ。器用に“いい人”のふりをしている君の姿が、昔の俺に」
相川さんはちびりと一口ジントニックを飲んだ。
「…………そんなに俺は不器用でしたか?」
何だかすごく不思議な気分だった。理解者に出会えた気がして、本当の自分が顔出す。
「いいや、すごく器用にやってるよ」
「でも、あなたにバレた」
「……うーん、俺はさ、浅見くんと同じ事をしてきたからわかるだけだよ」
「わからないな……相川さんは俺と違って大人だし、充実した人生を送ってきたんだろうなっては思うけど」
俺がそう呟くと、相川さんはぽつりぽつりと自分のことを話し始めた。
最初のコメントを投稿しよう!