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 間もなく9月も後半に差し掛かるというのに、まだまだ暑い。つくづく嫌になる。  刑事にとって暑くていいことなんて何一つないと思う。外の現場は日差しでジリジリ照りつけられるし、室内の現場は冷房なんてつけられないからモワァッとしたうだるような暑さに気が滅入る。いずれにせよ、Yシャツは汗びしょびしょだ。  それに……死体が早く腐ってしまうから検視がつらい。  そんなことを考えながら、俺はエアコンの効いた涼しい部屋で先程までの検視の報告書をまとめていた。汗で湿った服が冷えてきて、この上なく不快だ。 「柏倉さーん……じゃなかった、柏倉部長」 「別にいいよ、柏倉さん(・・)で」 「いや、やっぱりそこはちゃんとしないと……階級社会ですから」 「……武川。おまえ、俺が居残り昇任したのをバカにしてるだろ」 「そんなことないですよ~!! 俺、馴染みの柏倉部長がいてくれて助かってるんですから」  俺のデスクの横に立ったのは、武川蒼巡査長。現在俺の部下、そして相棒として働く男である。  俺は、この署の刑事課で勤務してもう8年になる。こんなの普通は有り得なくて、通常は5年くらいのサイクルで異動する。それに、昇任試験に合格すれば昇任すると同時に新天地で勤務するよう異動になるはずなのだ。  ところが、俺は今年昇任したにもかかわらず異動にならなかった。そういう昇任しても異動にならないことを警察官は通称“居残り昇任”と呼んでいる。  とはいえ、昇任して新天地で勤務することはかなり精神的に負担が掛かる。人間関係や仕事、一からやり直しだから。そういう意味で俺はラッキーなのかもしれない。慣れたところで馴れた人と慣れた仕事ができる。
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