9/21
前へ
/292ページ
次へ
「……え? 柏倉部長? ちょっと待ってくださいね」  武川だけじゃなくて俺も知ってるのか。  突如俺の名前が出てきたので、困惑しながらも顔を上げた。武川がニコニコしながら受話器をこちらに向けている。 「……誰から?」 「まぁまぁ、出てみてください」 「わかったよ……」  急ぎの用件ではなさそうだし、市民からの電話ではなさそうだけど。社会人ならちゃんと電話口の相手が誰なのか言えよなんて固いことは言わないが、さすがに相手が気になる。  俺はあまり話したい気分ではなかったが、渋々受話器を握った。 『もしもし。柏倉か』  その声だけで、俺は受話器を落としそうになった。  聞き間違えるはずもない。  この数年間、ずっとずっと頭の中で反芻されてきた声なのだ。  低くて、ぶっきらぼう。だけどどこか温かい、優しい声。 「……結城部長……」  結城秀和巡査部長――――俺の片想いの相手。
/292ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2627人が本棚に入れています
本棚に追加