11/21
前へ
/292ページ
次へ
「大丈夫……大丈夫です。少し、疲れてて……」  何とか声を絞り出した。  いつも笑って気持ちを隠してきた。距離を置かれるくらいなら隠し通していた方がましだった。  だけど、今は上手く笑えない。  そうだ、最初から自分の気持ちなんてわかっていたじゃないか。  アイツじゃない。  俺は結城部長に抱かれたかったんだ―――― 『……本当に大丈夫なのか? そっちの事件のことで話したいことがあったんだけど……係長に言った方がいいか?』 「あ……いえ、本当に大丈夫なんで話してください」  くすぶるどうしようもない感情。  俺の醜い欲望は、叶うはずもなく俺の頭の中で浅見との情事にすり変わり、何度も繰り返し再生されるだけ。  虚しかった。結城部長の声を聞けば尚更、浅見とのことが悔やまれる。  仕事に集中しないといけないのに。アイツに心を掻き乱される。
/292ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2627人が本棚に入れています
本棚に追加