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「……すっ、すみませんっ……!! ちゃんと集中しますから……」  焦った勢いでそう言ったものの、集中できる自信はない。昨日の今日でそう簡単に頭の整理がつくはずがない。  すぐに叱られると思ったのだが、田中係長は声を荒げることもなく溜め息を一つ吐いた。 「……別に怒ってる訳じゃねぇ。心配してんだ」 「え……」 「おまえがタフだと思って最近仕事預け過ぎてただろ。もう何連勤してる? 俺が家庭の事情で休んでるときも独身だからって無理して出てきてるだろ。よく考えたら普通はぶっ倒れるわな。悪かった。少し休め」 「……でも……」  たぶん肉体的な疲労じゃない。これは精神的なものだ。係長が俺の体調を気遣ってくれているのが申し訳なくなる。 「いいから今日は帰れ。帰って少し寝な。明日からの土日も休んでいいぞ。おまえは働き過ぎなんだよ」 「……すみません、刑事失格ですね……」  自分で自分が情けなくなる。いい年齢(とし)して、色恋沙汰で悩んで仕事に集中できなくなるなんて。バカみたいだ。  田中係長は人情に厚い人だから、俺のことを見誤ってる。俺はそんなに真面目じゃないし、疲れてるから集中できない訳じゃないのに。
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