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今一番会いたくないヤツの声だったから、すぐにわかった。
浅見が元気良く挨拶しながら真剣な顔で部屋に入ってきた。高そうな上等のスーツを着こなし背筋を伸ばして颯爽と歩く姿はやっぱり非の打ち所がないし、落ち着き払っていて新人らしくない。
だけど浅見がすごいのは、「お疲れさまです、失礼します」と各班に頭を下げて回りながら課長の席へ向かって行ったところだ。もちろん、俺たちの班にも。ご丁寧に田中係長の方を向きながらなので俺とは目が合わない。あえてそうしているに違いない。
きっとそういう謙虚な姿勢を見せることで新人らしさをアピールしているのだろう。もう何もかも計算ずくなんじゃないかと思えてくる。
「刑事課長、執務時間前に失礼します」
「浅見くん……だったね? どうした?」
本当に何しに来たんだ。まだ研修期間だから現場にも出ずに日勤でお勉強するんだろ。刑事課に来る用事なんてないはずだ。わざとなのか? 俺に対する嫌がらせ? うん、きっとそうだ。
俺は頭の中で悪態をつきながらも浅見のことが気になって仕方なかった。チラチラと刑事課長卓上の方を見てしまう。
「……実習生という半人前の立場で大変申し訳ないのですが、お願いしたいことがありまして。無礼を承知で参りました」
「ハハハッ、そんなにかしこまらなくてもいいよ。何をお願いしたいんだ?」
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