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 浅見の仰々しいまでの丁寧な物言いに、課長は破顔しながら応じている。浅見は深々と頭を下げた。  ――――どこからどう見ても好青年だ。  課長が好感を持っているのは表情から見て明らかだったし、きっと周囲も好青年として見ている。完璧過ぎて嫉妬している者くらいはいるかもしれないけれど、“怖さ”や“恥ずかしさ”などの複雑な感情を抱いて浅見を見ているのは俺くらいだろう。 「実は……刑事課で勉強をさせていただきたいのです」 「勉強?」 「はい、地域課の実習はきちんとやります。その上で、非番や休日に刑事課で勉強させてもらいたいんです。私は、刑事を志望しています」  ――――一体何を言い出すんだ。  そしたらほぼ毎日のように刑事課に来るってこと? そんなの俺が精神的に参ってしまう。勘弁してくれ。  俺の気持ちなど置き去りで、浅見は真剣な顔で課長に頭を下げていた。 「勉強熱心で感心だ。だけど勉強って言っても、実習生じゃもちろん事件は任せられないし書類一つ1人じゃ書けないんだよ? 誰かと連名じゃなきゃ書けない。刑事課は忙しいからね、刑事実習以外で君に時間を割くのは厳しいよ」  課長は微笑みながらやんわりと“足手まといだ”と言っている。確かに言葉通り、浅見の心意気は買っているのだろうけど。  課長の常識的な判断に俺は少しホッとする。
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