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「……それは充分承知しています。ですから、コピー取りでもお茶汲みでも何でも構わないんです。ご迷惑をお掛けしないよう、実習生ができることだけをします。もし邪魔で出て行けと言われれば出て行きます。私に教えるという時間を割いていただかなくても、刑事課の皆さんの仕事を見させていただくだけでもいいんです。どうか……お願いします!!」  元大臣の息子、キャリアにだってなれるであろう東大出身の男が、頭を下げて必死に懇願している。コピーでもお茶汲みでも何でもやると言って。  ――――そんなことをされたら、誰だって靡くに決まってる。 「そこまで言うなら……来てもらっても構わないよ。時間があるときは教えを請うといい。ただ、忙しければ誰も君の相手はできないかもしれない。それだけは了承してくれ」 「ありがとうございます……!!」  課長が折れると、浅見は目を輝かせて再び深々と頭を下げた。  顔が良くて、スタイルも良くて、頭が良くて、礼儀正しくて……更には仕事熱心で。  これで完璧な好青年の出来上がりだ。課長のお墨付きをもらったようなものだし、刑事課への出入りは容易だ。いけ好かないと思っていた者も認めざるをえない。嫉妬はやっぱりあるだろうけど、それを表に出すのが憚られるようになっただろう。  そういう包囲網を、浅見は敷いた。
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