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 父はいつも言っていた。 『友人は選べ。おまえは選ばれし人間なのだから』  わかってる。安心して。友達なんていないから。  だけどさ、自分で自分の息子を“選ばれし人間”とか言っちゃうなんて可笑しいよね。俺にはせいぜいそういう夢を見させてあげることしかできないよ。  勉強のできる息子、スポーツもできる息子、清廉潔白な息子。そういう息子でいてあげる。俺の努力なんてどうでも良くて結果が全てなんだとしても、お利口さんでいてあげる。褒められたいなんて感情、小さい頃に捨ててきたから、大丈夫。  俺は父が失墜しないように生きていた。  正直、誰のためだかわからないけど、父の立場が失墜すれば俺も母も不幸になるのはわかりきったことだった。別に地位や名誉はどうでもいい。けれど後ろ指を差されるのだけは嫌だった。  だから俺は自分の力でいろんなものを手に入れてきた。  俺の努力はいつだって当たり前のこととして消えた。恵まれた環境がそうさせると思われていたから。  さすが二世、と言われるのには飽々してたけど、反論するのは面倒くさい。  高校生の頃、自分の努力は自分さえわかっていればいいと開き直って静観を決め込んだら、今度はあからさまに虐められるようになった。  “生意気”とか“すかしてんじゃねぇよ”とか、そういうくだらないやつ。はいはい、わかってます。ただただ俺が羨ましいんでしょう?
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