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街灯の灯りを背負ったその人の表情は、影になってよく見えなかった。
普通は怖いんじゃないのかな。厄介な事には巻き込まれたくない、我関せずと知らないふりするのが当然なんじゃないのかな。
だけど、その人は『帰れよオッサン』とか罵るアイツらに淀むことなく毅然と対応していた。
「……俺たち遊んでるんだよな? なっ?!」
この期に及んで“イジメじゃない”と言い逃れしようとするヤツら。
もう何もかも面倒くさかった。ここで俺が“遊んでない”と言ったところで何になる。何も変わりはしない。今逃れられても明日からまた殴られるのだから。
「……はい、遊んでます。帰ってください」
――――あなたも厄介事から逃れるなら今ですよ。
そのくらいの投げやりな気持ちだった。何もかも諦めてしまっていた俺は助けを求める術さえ忘れていた。
それなのに――――
「……嫌だ。帰らない」
――――どうして?
どうして、助けてくれるの?
面倒くさいでしょう?
俺のことなんて知らないでしょう?
何でここまでしてくれるの?
その人が殴りかかった1人を柔道技で綺麗に投げ飛ばしたとき、俺は“正義の味方”というやつを初めて見た気がした。
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