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 初めてだった――――。 「……とにかく、馬鹿なことは考えるなよ」 「馬鹿なことって……?」 「……あー、あれだよ、死ぬ、とかさ」  この人を知りたい。  この人に自分という人間を知ってもらいたい。  この人のことなら何でも知りたい、そう思った。  俺のことを親の肩書きとか抜きにして本気で心配してくれる、この人のことを。 「……おまえは、強いなぁ」  そう言って俺の努力を認めてくれた、この人のことを――――。  その後、あれほど頑なに拒んでいた父の力に初めて頼った。  いじめられていることを打ち明けた。それから、恐喝されているところを助けてくれた“柏倉”という人のことも。全て打ち明けた。  頼さんが望んでいた、“いじめの根本的な解決のため”の親への相談じゃなかった。  狡い方法だとしても、俺はただ知りたかったのだ。“柏倉”とだけ名乗り立ち去っていった、あの人のことを。
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