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 出会ったその日から、何かに手繰り寄せられるように惹かれていった。  たぶん、無い物ねだり。  俺と頼さんは“陰と陽”で。  俺に無い明るさだとか正義感、真っ直ぐな心を持つ頼さんはとても眩しく見えた。  もし父に『いじめに負けて死を選ぶなんて馬鹿な真似はよせ』なんて言われたとしたら、こんなの俺の教育のためじゃなくて自己保身のためなんでしょって薄ら寒くて、心の中で嘲笑ってしまっただろう。  だけどね、頼さんに“死ぬな”と言われたときには、急に視界が明るくなって道が開けたような感覚になったんだ。  俺はずっと生きる意味など見出だせなかったから。親の道具みたいに、親の思う通りに生きてきたから。俺の努力は俺だけのものだと思っていたけど、やっぱり親に対する強迫観念みたいなものだったんだよ。現に俺は、努力して身に付けたものをどうしていいかわからない。将来何になるかなんて、親に敷かれたレール上にしか選択肢がなかったんだ。  頼さんが俺を変えた。  優しさと強さで、俺に“自分の道”を開いてくれた。  親に敷かれたレールを行くのはもうやめだ。  ――――頼さん、俺も頼さんみたいな警察官になるよ。
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