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 久しぶりに昔の夢を見た。子どもの頃から高校生の頃までの走馬灯みたいな夢。  きっと頼さんを抱いたから、そんな夢を見たのだろう。  5年前、暗がりに光が差すように、頼さんは俺のつまらない灰色の人生に彩りをくれた。そう、まるで王子の登場やスーパーヒーローの登場のように、俺を颯爽と救ってくれた。  その美しい物語のような思い出が、今の俺を支えている。 「……ねぇ、律」  俺は目を開け、ゆっくりとベッドから身体を起こした。  まだ暗い。何時なのかは定かじゃないけれど、日が昇る前なのは間違いない。  こんな夜中に俺の部屋をノックもなしに入ってくる不躾な人物は、1人しかいない。ついつい溜め息が漏れるが、すぐに笑顔を貼り付ける。 「……どうしたのですか? まだ夜中ですよ。ゆっくりお休みください」 「だって、“(れい)さん”がいないのよ、どこにも」 「…………すぐに戻ってきますから」 「……本当?」 「本当です。さぁ、もう寝ましょう。寝室まで送りますから……ねぇ、お母さん」  ――――ねぇ、頼さん。  俺の人生はまた灰色に戻ってしまったよ。  ねぇ。頼さん、俺を助けて。  頼さんの中に俺の存在を叩き込めたなら、俺はきっと生きていけるから。
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