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 目を瞑ることも、耳を塞ぐことも、そのスマホを握りしめる手を離すこともできなかった。  ――――どうして?  気付けば、俺は無言で画面の通話マークにスワイプしていた。 『…………頼さん』  少し間があって、浅見が俺を呼んだ。  低いけど、よく通る声。電話越しでは初めて聞く。  俺は返事もせずに黙っていた。複雑な感情で言葉にならなかった。  怒っているし恨んでもいるけれど、心の底からは憎みきれない。完全に嫌いになるほど憎んではいなくとも、今までどおりに話せるほど簡単な話じゃないし、話したくもない訳で。だけど話したくないのに気付いたら電話に出ていて。  本当にバカなんだ、俺は。  5年前からずっとはっきりしない。告白を保留にして、再会してからの待ち合わせも断れなかったし、就職祝いなら仕方ないかなんていそいそと2人きりの飲み会にも繰り出した。  たぶん事の元凶は俺なんだよ。  それはわかってるんだけど。どうして浅見に対してはこんなにフラフラしてるのか。
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