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 ――――それなのに。 『…………頼さん……今日帰りにそちらに行ってもいいですか?』  しばらく黙っていた浅見の口からやっと出た言葉がそれだった。優しい穏やかな声色。  俺はカッとなった。スマホをギリギリと固く握りしめる。  一体何を考えているのか。何がどうなってそういう結論に至るのか、全く理解できない。 「バカなのかっ……?! 俺は、おまえをっ……」 『頼さん』  優しいけれど、凛とした声だった。  それは、非情でも冷酷でも天然のバカでもないし、わざと(とぼ)けて煽っている訳でもない。  きっとコイツは全てをわかった上で言っている。  浅見の張り詰めたような真剣な声のトーンに思わず戸惑う。 『……わかっています。僕がどんなに酷いことをしたのか。それでも……今日きちんと目を見て話したいんです』  浅見はいつも真っ向勝負をしてくる。  いかなる状況でも俺の退路も塞いで、その瞳で俺を見つめるのだ。  そうだ、浅見はいつでも逃げない。学生の頃のいじめに対しても逃げずに1人耐えていた。そういう強さに、俺は好感を持っていた。  だけど今は、浅見のその強さが(したた)かに思えて嫌になる。だって俺は逃げたくて仕方ないのだから。
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