2627人が本棚に入れています
本棚に追加
/292ページ
――――それなのに。
『…………頼さん……今日帰りにそちらに行ってもいいですか?』
しばらく黙っていた浅見の口からやっと出た言葉がそれだった。優しい穏やかな声色。
俺はカッとなった。スマホをギリギリと固く握りしめる。
一体何を考えているのか。何がどうなってそういう結論に至るのか、全く理解できない。
「バカなのかっ……?! 俺は、おまえをっ……」
『頼さん』
優しいけれど、凛とした声だった。
それは、非情でも冷酷でも天然のバカでもないし、わざと惚けて煽っている訳でもない。
きっとコイツは全てをわかった上で言っている。
浅見の張り詰めたような真剣な声のトーンに思わず戸惑う。
『……わかっています。僕がどんなに酷いことをしたのか。それでも……今日きちんと目を見て話したいんです』
浅見はいつも真っ向勝負をしてくる。
いかなる状況でも俺の退路も塞いで、その瞳で俺を見つめるのだ。
そうだ、浅見はいつでも逃げない。学生の頃のいじめに対しても逃げずに1人耐えていた。そういう強さに、俺は好感を持っていた。
だけど今は、浅見のその強さが強かに思えて嫌になる。だって俺は逃げたくて仕方ないのだから。
最初のコメントを投稿しよう!