遡行

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 傘の先を引きずりながら歩いた歩道、縁石に立って表彰台気分を味わった駐車場、よく吠える犬がいた家、いつも友達とバイバイしていた交差点。  名物おじさんが毎朝変なストレッチをしていた家の庭は、手鞠のような沈丁花の花が薄紅に色づいていた。  小学校の近くには川がある。  所謂二級河川で、近所のよしみか、川遊びや魚供養、河川敷でのゴミ拾いなどの行事がとりわけ多かった気がする。  川沿いの小路に差し掛かると、下校途中の子供たちや、遊びに行く子供たちの賑やかな声が行き交った。  卒業や進級を控え、心なしかそわそわしているように見える。  学校での話に加え、ゲームの話や漫画の話、トレーディングカードの話……。  物は進化していても、今の子供の興味も僕の時代とはさほど変わらないみたいだ。  僕も、小学生の頃にはカードゲームに熱中した。  お気に入りのコインケースに小遣いを入れて、いつもの駄菓子屋に自転車で乗り付け、友達と競うようにカード販売機に百円を投じていたことを思い出す。  あの頃と比べて、僕たちの“陣地”は変わっただろうか。  空は、何色に変わっただろうか。  それとも、さして変わってもいないのだろうか。  見上げると、雲があまりにも高い位置にそびえていた。  大人になっても一向に縮まらない距離を知る。  僕は所詮、何にも手の届かない子供みたいなものなのだ。
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