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──大川タロウ。
『──それじゃあ、覚えておいてくださいねっ。私の名前はオオカワですよっ』
「…忘れるわけないじゃないですか…。忘れませんよ……っ」
数刻前の別れを思い出しながら、そっと日記のページにその思い出を挟んで、静かに閉じた。
階下から聞こえてくる母の声に、ごめん、今いくよ、と振り絞るようにこたえると、部屋から出ていった。
日記のとなりには、一眼レフとともに、これまで撮った写真が並べられている。
川や木々、散歩道と、その道をゆく彼の遠い後ろ姿。
走り出して別れたあの時に、せめて後ろ姿だけでもと、すでに振り返って帰っていた彼を、立ち止まって写真と記憶に刻み込んだ彼の後ろ姿。
写真はいつも、同じ構図をたどっている。
明日へと続いている、永遠に続いている、円になったレールの上をたどっている。
フィルムへと刻まれた思い出は、フィルムとともにまわっていく。
今日もフィルムはまわっていく。
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