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泣きじゃくる顔を人に見られたくなくて、ふらふらと近所の公園に来た。遊んでいる子は誰もいない。ブランコに腰を下ろして、ぐしゃぐしゃになったハンドタオルで止まらない涙と鼻水をぬぐい続けた。 "…もし君がまた、どうしようもない寂しさを感じた時には、ぼくの事を思い出してごらん" 突然、誰かの声が聞こえた。というか心に浮かんだ。 その瞬間なぜか、私は空を見た。 (誰?) するとまた、声が心に浮かんだ。 "そばに来てよって願うんだ" (あなたは…誰?) 夕焼けに染まるオレンジ色の空を、たくさんのちぎれ雲が行きかっている。群れをなす雲達の中に、ぽっと大きなかたまりが現れた。 (なんだか魚の群れみたい…特にあの大きなのは鯨みたいで…国語の教科書みたい……国語?) ふと、小学校の国語の教科書に載っている、ある有名なタイトルが胸をよぎった。 (思い出したい、思い出さなきゃ…) 話の大筋を覚えてるだけじゃない。私、あの"くじら"に会った事、有る… (そうだ、私身体が弱くて入院ばっかりしていたから、学校にほとんど行けなくて…夕方、お母さんも学校のみんなも病院から帰った後、一人で寂しくて…だからいつも窓辺に来てくれてた…)(なんで、忘れてしまったんだろう…) さっきまでとは違う種類の涙が、目に浮かんだ。いちど目をぬぐってから、私はもう一度夕暮れの空を見上げた。 「やあ、久しぶり」 夕陽を浴びて、これ以上無いくらい神々しく輝く鯨雲が、私を見下ろしていた。 「さあ、思いっきりジャンプしてごらん。今日は背中に乗せてあげるよ」 あの掛け声を! 「天まで届け、1・2・3!」 叫んで飛び跳ねた瞬間、大きな風…というか大きな"手"が、私の身体をすくった。うっすら目尻に残っていた涙は、突風ですべて吹き飛ばされた。
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