その先には

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その先には

 休日の初雪に誘われるように訪れた公園で偶然彼女の姿を見つけた。  不愛想というよりは無表情な、無口だけれど人当たりが悪いわけでもない、清潔感のある優等生然とした彼女のことが教室でいつも気になっていた。ありていに言ってしまうと、初恋の人だ。ちなみにまだ喋ったことは無い。  防寒具をしっかりと着込んだ彼女は池の縁に立って、手にした大きなカメラをしきりに覗き込んでいた。彼女は新聞部であるらしいから、そういったものを持っていても不思議ではないだろう。今日はなんだろう、部活の一環だろうか。  雪なんて毎年降るのに、初雪というのは不思議と心躍るなんて思いながら来た公園での偶然の出会い。普段だったら気にしながらも素通りしてしまうだろう状況で彼女に声をかけたのは、運命を感じたとかなんとか、そんな浮ついた気持ちになっていたからだと思う。 「よう」 「…や」  短い返事を返して視線をこちらに向けてきた彼女の表情から感情は読み取れない。返事が思いのほか気安い感じだったので、少なくともクラスメイトだとは認知されていそうだ、ということくらいはわかった。  ここから何も考えていなかった。緊張と気恥ずかしさで鼓動が高まる。なんでもいいから言わなくては。雑談の話題を出すのにこんなに苦労したことなんかあっただろうか。 「ここ、俺んちの近くなんだ。よく来んの?」 「そういうわけじゃないけど。結構いい公園だからまた来るかも」  上ずりそうな声を抑えるのに必死な自分に対して、彼女は淡々としたものだ。鬱陶しがられていないだろうか。そうだとしても今更だと不安を振り払う。 「そっか。今日は何してんの?」  そう言ってカメラを指さした俺に、彼女は池の向こう側を指さした。少し遠いけれど、そこにはベンチに座る男女の姿が見える。  彼女は短く真顔で答えた。 「ノゾキよ」 「ノゾキ」 「ほらクラスメイトの彼女、柔道部の先輩と付き合ってるの」 「それは知ってる」 「そして私は新聞部だから」 「それも知ってる」 「つまり真実はひとつよ」 「えげつねぇ…」  今日、俺の初恋は終わった。  想っていた彼女は、思っていた感じとはだいぶ違った。  幻滅した、というわけではないけれど、俺の先入観が作り上げていた彼女とは別人だったのだから仕方がない。  さようなら俺の初恋。
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