21 覚え無きアスター(思い出)

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21 覚え無きアスター(思い出)

 紫苑は夢を見ている。  それは見た事もない景色。  巨大な木造の扉。  その前に立つ紫苑。  その姿は幼くあどけない顔。  紫苑は歩き出す。  紫苑は辺りを見回す。  赤い光。  碧き光。  黄金の光。  すみれ色の光。  朱色の光。  それは……  色付きのガラスを透して……  差し込む太陽の光。  壁に数々の巨大なステンドグラス。  太陽はガラスを透して……  色とりどりの光として射し込む。  キラキラと白い粒子が光によって色づいて行く。  そこは大聖堂のような荘厳な造り。  薄暗くも厳かな静けさ。  アーチとなった天井。  乱立する巨大な石柱。  石柱のたもと。  大小の翼竜ドラゴンたち。  翼竜たちは丸くなり眠っている。  石畳の床を歩く紫苑。  カツカツと足音が御堂の中で響き渡る。  紫苑は翼竜に近づく。  突然。  目を覚まし。  炎を吐き。  威嚇する。  翼竜。  恐れる紫苑。  紫苑の瞳  涙が溢れる。  零れる一滴ひとしずくの涙。 「お母さん・・・」  つぶやく紫苑。  胸中は心細く。  静けさは身を寒くする。  身を縮め震えながら。  歩く紫苑。  歩く足音。  カツカツと響く。  音がするたびに胸は寂しさに彩られる。  歩く速度が徐々に遅くなる。  それは寂しさの具現化。 「シオン」  紫苑は立ち止まる。  自分を呼ぶ声がしたから。  声が聞える。  聞き覚えがある声。  しかし今まで聞いたことがない響き。  それは……  母の声。  辺りを見回すと。  御堂の奥手前で立つ母の姿。  まるで王女のようなドレス。  赤地に白と金と黒の薔薇の刺繍。  真珠の首飾り。  色とりどりの宝石が耀くティアラ。  美しく艶やかな黒髪。  光で色づいて耀いている。  美しい女性。  間違いなく母の姿。  母は微笑んでいた。  見たことがない笑顔。  それは……  あこがれていた笑顔。  求めていた笑顔。  欲していた笑顔。  慈しみ。  優しく微笑む笑顔。  紫苑を愛しているその笑顔。  その笑顔が紫苑の瞳に映える。 「おいでシオン」
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