29 2人のグレープヒヤシンス(黙っていても通じる私の心)

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 男の形相は、弱者に対する勝ちを意識した表情。  負けるという想いなど微塵もない表情。  目の前の、きゃしゃな体と幼い顔。  どう考えても、武は男にある。  男はそう考える。  それが、私でなければの話だ。 「手を離したかったが、再犯する恐れがあるお前に戒めを刻まねばと思ったからな」 「何偉そうな事を言ってるんだ!俺があの女に何したって言うんだよ!おい、お前!俺が何したって言うんだ!」  男は、怯える少女に喰って掛かろうと身を少女の方へと動かす。  歩み寄ろうとする行く手を塞ぐ私。 「ここで言って良いのか? 私が大声を出したら、絵図らは他人からどう見える? か弱い女性二人を恫喝している男の絵。武はどっちにある?」 「なに!」  私が息を大きく吸い込むと同時に、男は走り出した。 「きゃー(小さな声)」  息を吐くと同時に小さな悲鳴を出した後、男の潔い逃げっぷりに笑いが内の中から込み上げてくる。  男は通勤で込み合う人込みの中を押し退けながら走り去っていった。  私は、振り返り瞳にしゃがみ込んでいる少女を映す。 「大丈夫?」
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