4 持ち続けるアイリス(優しい心)
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4 持ち続けるアイリス(優しい心)

 A町は山で囲まれた田舎町で、人口2万人ほどが住んでいます。  A町近くの山間部には犬川貯水池があり、そこから川沿いに2㎞程下ればA町につきます。  夕刻。  山間やまあいにある犬川貯水池は薄暮はくぼ只中ただなかに。  景色は影との境目が徐々に薄らいできています。  まだ、日の光が照らす山は、向こう側から挿す影が陽の光とはっきりと分かれています。  その小さな世界の中で・・・  溜池に足を浸すアマランス。  微動だにせずにそこに立ち尽くしている。  その姿は山の陰で、鮮やかな藍色あおいろ紺色こんいろへ・・・  そして徐々にこんから限りなく黒へと近づいていく。  彼女は、池の水に大きく波紋をつくる。  そして静かに、静かに池から浮き上がる。  滴り落ちる水が幾つもの波紋を作り出す。  池の水面は波打ち、荒々しく揺らいでいました。  アマランスの体内、紫苑がいる部屋。  ウルズが彼の右脇で嬉しそうに立っています。  彼女は、時折、チラリチラリと盗み見をしている。  頬は撫子色に染まっている。  新しいあるじが出来た。  そう、彼女は喜びの只中。  想いを告げて心の中は淡い恋の世界。  その世界は広がりはしゃいでもいる。 「それでは紫苑様、彼女に命令してください」  ウルズの声は、少し弾んだ声。  まだ、あるじとなったばかりの紫苑。  従者として、彼をエスコートできる喜び。  それに溺れているようでもあります。 「解りました。アマランスさん、川に沿って歩いてみてください」  言われて。  アマランスは、貯水池からサラサラと流れる川の傍に静かに降り立ちます。  そして、歩き始める。