11 もう一人のアネモネ

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11 もう一人のアネモネ

 内閣府中央合同庁舎第8号館正門前。  その建物は、無言で私を見下ろしている。  いや、私がその建物を見上げている。  この暑い夏の中。  大地はねっせられ。  ユラユラ揺らめく陽炎かげろう。  その建物だけが涼し気だ。  羨ましい。  この建物が・・・  八月の照り付ける太陽。  時刻は朝の7時半前。    そんなに涼し気で私を見下ろすな。  なんだか、腹が立ってきた。  だから、呟いた。 「何故私はここにいる。理解不能・・・」   機械的な口調。  ぶつぶつと呪文のように呟く私。  一条那美喜なみき。  よく、20代前半と言われるが、こう見えても40歳。  アラフォー世代に入ったばかり、年相応に人から見られたことがない。  取りあえずという訳ではないが、黒地のビジネススーツを着こなしているが、顔が若いせいか、自分でもあまり似合っているとは言い難い。  しかし、世の男どもと対等に戦うためには必要な戦闘服。  この、顔つきやスレンダーな体つきで色々と不都合があるからだ。  人は年相応に見られない事が、得な者と損な者がいる。  私の場合は、後者。    なぜなら、私は警察官。  警視庁総務部広報課広報センター勤務で、役職は班長。  階級は警部補。  警部補なのに、周りは巡査扱いする。  特に、新入りのマスコミは決まって私を誘ってくる。  最近は、私みたいな年中ショートカットで中性的な顔立ちは男に受けやすい時代になったらしい。  まぁ、10年前はもっと酷かったから、まだ、誘ってくるくらいならマシな方なのだろう。  10年前は、よく未成年と勘違いされた。  警視庁で制服が一番似合わない女として名を馳せてしまっていたし、さらには、『化け物』という不名誉な異名迄賜ってしまった。   警視庁入りたての頃は、さらに酷く。  よく交番前で立っていると、中学生が職業体験で1日交番勤務をしていると、道行くお爺さんによく勘違いされて「えらいねぇ、お嬢ちゃん」などと労われた。  今の様に、マスコミの若造から言い寄られるくらいなら、マシな方だ。  だが、私は男に性的な魅力を感じない。  なぜ、「恋人を作らないの」と人からよく聞かれるが、恋人はいる。
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