一週間と一瞬

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「やあ、こんばんは」 そこから見下ろす町からは、すでに点々と光が消えつつあった。 勾配の激しい坂はゆっくり歩くだけでもなかなかキツくて、毎週のように来ている僕でも息が切れてしまう。 「こんばんは~、ちょっと遅刻だよ?」 そう言われて腕の袖を捲ると、まだ約束の時間の7分も前だった。よっぽど早く来たのだろう。彼女は少し寒そうに膝をぎゅっと抱えた。 今僕たちがいる場所は、昔見つけた空と町を一望出来る場所。人目の付きにくいところにあるのが残念だが、そのぶん誰もいない、静かな時間を過ごせる。 僕は彼女の隣にそっと腰をおろす。しなしなになった草は柔らかく心地よかったが、もうそんな季節かと、どこか寂しささえ感じてしまう。 「………ここ、綺麗だね」 彼女が上を見上げるから、代わりに僕は下を向いた。ため息が空気を汚し、飲み込んだ言葉は喉に詰まる。 「………うん」 僕はまた、大きく息を吸った。ここにくれば何かが変わると思ったが、まったくの検討違いだった。 彼女は確か、昔から星が好きだった気がする。家が近くてよく遊んでいた時に、そんな話をした気がする。はたして今はどうなんだろうか。聞いてみたい気持ちもあるが、きっと相手からしたら不思議に思うだろう。ただ話すことがこんなにも難しいとこだなんて、前までは知らなかった。 「…………今日も、月が綺麗だ」 僕は月なんて見ないままそう呟く。 彼女とここに来るのなんて始めてなくせに。彼女が国語が苦手だってことを分かっているくせに。 ふとした奇跡が起こってくれるんじゃないかって、僕はまた期待してしまう。 「ふふ、そうだね……」 何かを行うときの準備が一番楽しいってよく聞くけど、思えばそんなことは無かった気がする。ちょっとしたことで開いてしまった距離を縮めて、仲良くなって、この場所に誘う。同じ学校ということもあってチャンスが多かったこともあるが、よく一週間でここまで出来たものだ。あと数十分ほどで今日が終わる。明日は月曜日だからあまり遅くなれないと思いつつも、ついこの時間が、永遠に終わらなければいいのにと思ってしまう。 それでもこの世界は残酷で、彼女は僕にそっと、「さよなら」と告げた。
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