水無月のなかで

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 6月。ブカブカの黒学ランに染み込むような霧雨の中、俺は学校に向かって歩いていた。足取りは我ながら乱暴で、勢いよく踏み出す一歩一歩とブンブンと振り回す両腕が、俺の「怒ってます」を存分に表現している。心がくさくさと荒立っていたのは、梅雨のまとわりつく湿気と、じわじわと夏の気配を含み始めた熱気が原因というわけではなかった。 (今日一日、ほんまにツイてへんかった!)  今日という日を振り返って見てみると、「ツイてない」の一言がこんなに似合ってしまう日があるのかというほど散々な日だったのだ。   (朝は、千春と智和がふざけて目覚ましいじったせいで寝坊するし、ダッシュして校門着いたと思ったら、チャイム鳴るっちゅーお約束。 担任には怒られるし、朝飯食えてへんからめっちゃ腹減ってた。早弁しようにもそもそも弁当作れてへんから無理で、持ち合わした金が300円。買えても購買で牛乳一パックとメロンパン&コッペパン。 友達にお金借りて何とかしのいだけど、午後に帰ってきたテストで赤点、ほんで放課後の補講。やっと終わって帰れる思て駅まで着いたところで…) 「明日絶対出さなあかん課題を学校に忘れ取ることに気付くとか…っ!!!」  悔しさを思わず口に出してしまうと、思っていたよりも大きくなってしまった。まばらになった人影の何人かがこちらに訝しげな視線を寄越してくる。 (っ…、もおほんまに、今日はあかんわぁ) 恥ずかしさで顔に集まる熱を自覚しながら、自分の教室に向かう足を早める。 雨脚が強くなっている気がして、更に憂鬱になりながら下駄箱から上履きを取り出したのだった。
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