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俺が釣りに興味がない事なんて まるで御構いなしに 無理矢理に俺を付き合わせた事は 何度もある。 スズキ君はいつだって爆釣で 俺はいつだって坊主…… つまり釣果ゼロだった。 あの頃、スズキ君は 全くバイトをしてなかった。 バイトをする必要がない位 儲かっていたからだ。 彼は釣り好きが高じて 自作のルアーや仕掛けを考案した。 最初はその当時人気があった 『MEGA・BOSS』のルアーなんかを 改造していたようだ。 それだけじゃ飽き足らず 自作を始めたらスズキ君のルアーは 釣り場ですぐに大評判になった。 魚の目を引くキラキラ素材を仕入れる為 女子しかいない都内の手芸店、ユザヲヤに つき合わされた事も一度や二度じゃ なかった。 「是非売ってくれ」と釣具屋が スズキ君を追い俺のウチにまで 大挙して押し寄せた。 釣具店で 『スズキモデル』のルアーは常に売り切れ。 多くのファン達は入荷待ちのリストに 競って名前を連ねた。 『スズキモデル』は釣り雑誌でも 良く取り上げられていた。 彼はその道では知る人ぞ知る有名人。 でも当のスズキ君は金儲けには 全く興味がない様子だった。 周りのみんなが就職活動に 躍起になっている頃も 彼は相変わらず釣りばかりしていた。 目を血走らせながら汗だくになって リクルートスーツで駆け回る周囲に 気をとめるでもなく 「就職? う~ん、 釣りに飽きたら仕事探すかも……」 なんて言ってたな。     
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