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俺が身を潜めている朽ちたドームの上を、
何かが駆け上がる音がした。
「今晩は……」
銀の鈴が鳴り響くような良く通る声。
ドームの上に視線を送った猫達が
ヒゲを目一杯広げ、目を見開くその先に
小さな黒猫が現れた。
「あれ?……あんた……」
白虎は目一杯見開いた大きな瞳を
急に細めてその正体を見極めようとした。
だが、思いもよらない展開が待っていた。
次の瞬間、枯れ草の広場を蹴散らす
猛犬の唸り声が緩やかな空気を
引き裂いた。
「おのれ、翁丸か!」
山爺の野太い声が虚しく響く。
等間隔にくつろぎ、
あるいは丸まっていた猫達は
一瞬にして毛を逆立て、
叫び、逃げ惑い、あっという間に
ドームの中の俺一人を置き去りにして
散り散りに姿を消した。
「次の満月に……」という声が
遠くで聞こえたような気がした。
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