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見ると、壁に掛けてある ホコリを被った釣竿(ロッド)……。 竿に絡まった疑似餌(ルアー)と闘っている。 ルアーのフックには カバーが付いちゃいるけど 鋭い針で怪我をしたら大変だ。 誤って食べちゃったらもっとマズい。 「黒豆! これは魚じゃないんだぞ」 夢中になる黒豆からルアーを取り上げる。 それでもキョロキョロと 周りを探し続ける黒豆。 まだ仔猫といえる年齢の 黒豆にとってルアーは 本物の魚に見えるのかもしれない。 そういえば最近黒豆には カリカリなドライフードしか 食べさせてやれてなかった。 いや。 俺だって食事らしい食事なんてしてない。 職を見つけるまでは我慢だ。 とはいえ、俺の所為で黒豆に 皺寄せが行くのはあまりに不甲斐ない。 ガラス越しに白い猫が ゆっくりと通り過ぎる。 麻呂眉の白猫、白麻呂だ。 それに気付いた黒豆は 格子がはまった台所の窓の隙間から 遊びに行ってしまった。 手元には黒豆から取り上げた ルアーが転がっていた。 スズキ君から貰った イワシカラーの改造ルアーだ。 スズキ君は大学時代の友達だ。 釣りが趣味でしょちゅう ウチに寄っては釣りに出かけてた。 ウチから川までが徒歩圏内だと いう理由だけで俺に狙いを 定めたんじゃないかと 思えるフシがあった。 そして釣りに全く興味がない俺に このロッドとルアーをくれたんだ。     
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