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節約生活を強いられる俺と
黒豆にはありがたい情報だ。
それにしてもこの金貨、
どれ程の価値なのか全くわからない。
すんごいお宝かもしれない。
それなのに、まるでギザ10みたいな
感覚でそれを俺に渡す女将さんの度量の
大きさに正直俺は感銘を受けた。
── あ。黒豆?
そういえばアイツは
どこに行ったんだ?
足元で「にゃぁ」という声がした。
黒豆が口元をペロペロ舐めている。
どうやら野良猫達に混ざって、
ちゃっかり小鰯をご馳走に
なっていたらしい。
「何だか疲れたな。帰ろうか」
サラリーマンが鞄を小脇に
家路へと急ぐ商店街を
俺は魚の袋をぶら提げて
黒豆と一緒に歩いた。
昔ながらの八百屋や惣菜屋、
肉屋や魚屋……。
夕飯の買い物をするおばちゃん達で
賑やかだ。
大家の娘さんが経営する
アンティークショップの前を通る。
営業時間内のはずだけど
若い女性店員が一人店番をしている
だけで娘さんの姿は見当たらなかった。
陽が傾くと途端に肌寒くなる。
俺は黒豆をつまみあげると
ジャージのファスナーを下げて
服の中に入れた。
秋風が枯葉と一緒に
ちぎれたチラシを俺の足元に運んで来た。
所々破れた紙が足にまとわり付いている。
── 迷い犬。九月九日散歩中、
通りがかった猫を追って
犬がいなくなりました。茶色の中型犬。
3歳。オス。翁丸。
携帯番号……。
翁丸?古風な名前だな。
どこかで……
見た事のあるようなチラシだった。
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