1-お寺-

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 「あれ、いない。」  駅から寺までの距離は遠い。普通なら彼の運転する黒いワゴンが迎えに来ているはずなのだが、無人の駅のロータリーには誰もいなかった。  遅れているのかもしれないと思いしばらく待ってみたが、一向に車は現れなかった。  頭上を鷺が飛んで行く。  電話、かけてみるかな。そう思い私はスマホの連絡先を開き、彼の名前を探した。  受話器のマークを押したら、彼に通じるんだと思うと心臓が高鳴った。なんせ、初めてこの連絡先を使うのだ。  震える指でそっとマークに触れる。耳にスマホを当てると、プルルルという音が聞こえる。私はドクドクと静まらない胸を抑えるために、深く深呼吸をした。
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