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「し、失礼します。」と言うと、彼の「どうぞ~」という、普段よりも緩んだ返事が返ってきた。私は緊張を抑えつつ彼の隣に腰を降ろした。
彼は胡座をかき両手を後ろについて、だいぶリラックスしているようだった。
何を話して良いのかも分からなかったので、私は手羽先を一口かじった。皮がパリッと音をたてて、徐々に辛さが効いてくる。
「おいしい!!」と自然に声が出てしまった。そんな私の反応を見て、彼は「な。うまいよな、これ」と言いながら笑った。
彼も辛いものが好きなようで、味の話で盛り上がった。甘いものが苦手な私を「女の子なのに」と思っているのだろうなと思ったが、彼も甘いものは得意ではないと共感してくれた。
些細なことではあるけれど、私と彼との間に共通点があることを、少し嬉しく感じた。
しばらく二人で会話を続けていると、夏海さんがやって来た。その表情はにやつきを隠しきれていないので、何かを企んでいることはすぐにわかった。
「ねえねえ、二人とも知ってる~?」と聞き、彼が「なにが?」と言うと、夏海さんは更にニヤリと笑った。そして、「辛さって、味じゃないんだよ~?」と続けた。
「へぇ~、じゃあ、なんなの?」と彼が聞き、私も気になって答えを待っていると、「待ってました!!」と言わんばかりに夏海さんはニヤリとした。本人ももう、隠すつもりはないらしい。
「辛さは、痛みなんだよ~」
私と彼は、夏海さんが何を企んでいるのか今一つ分からず、「へぇ~そうなんだ、味覚じゃないんだ。」「初めて知ったわ~」と感想を述べた。
すると、夏海さんは「つまりね~?」と私たちに顔を近づけた。そして、周りに聞こえないように小声で言った。
「辛いものが好きな人は、ドMなんだよ~」
そう言うだけ言って、夏海さんは「じゃね」と手をヒラヒラと振って去っていった。その後ろ姿はなんとも満足げだった。
二人取り残されて、なんだか少し恥ずかしい雰囲気になってしまった。
「いずみちゃん、ドMなんだって。」と彼が口を開く。私も「し、真条さんもですよ。」と言うと、彼は「そっか」と言ってふっと笑った。
「やられたな」と笑う彼は、なんだか少し色っぽかった。
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