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「そういえば、電車何時だっけ?」
車に乗り込むと、夏海さんが言った。その言葉にみな、「あ...」と声を揃え、一瞬の沈黙が走った。星空に目を奪われ、私たちはすっかり電車の時間を忘れていた。
ここは田圃に囲まれ、自然豊かな田舎だ。人が少ないので、当然、電車の本数は少ない。逃すと最低でも一時間は待たなければならない。
「電車何時!?」
宏樹さんが叫んだ。夏海さんがスマホで出発時刻を確かめる。
「えっとえっと、あと十分!!!」
ここから駅まで、真条さんの粗い運転で十五分はかかっていたはず。それに彼はお酒が入っているから、運転はあの穏和なまさしさんだ。
さーっと、みなの血の気が引いていくのを感じた。
「ま、まさしさん」と真条さんが名前を呼ぶ。一斉にまさしさんに視線が集中した。
しかし、焦る私たちとは裏腹に、まさしさんはなんだか楽しそうな表情をしている。が、その笑顔がなんだか裏がありそうに見えたのは、私だけではないはずだ。
すると、まさしさんは指と首を鳴らし、目を閉じて深呼吸をした。そして、ゆっくりと開いたその瞳はまるで別人のようだった。
「任せとけ!!!」
まさしさんはそう言うとキーを差し込み、ハンドルをギリギリと音が鳴るほどに握った。そして、けたたましいエンジン音と共に、猛スピードで車を発進させた。
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