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十分ほどして、遠くから黒いワゴンがこちらに向かってくるのが見えた。
運転席にはハンドルを握る、ラフな姿の彼が見えた。その瞬間、胸が高鳴った。
車が私の前に止まると、彼が窓から「どうぞ、乗ってよ」と声をかけた。
いつもは他の人が乗る助手席に、今日は誰も乗っていない。助手席は足腰の悪い人が優先して乗るのだ。
私はいつも後部座席にしか座らない。
助手席に座ってみたいと思ったことは何度もあるが、叶ったことはない。
私は助手席に羨望の眼差しを向けたまま、いつものように後部座席に座ろうとした。
「なんだよ、おっさんの隣は嫌か?」
「え?」と聞き返すと、彼は「おじさん寂しいな~、若い子に助手席座ってほしいな~」と白い歯をにかっと見せて、いじわるっぽく笑った。
「しよ、しょうがないから、座ってあげます。」
何故か強気に答えてしまった。が、内心はとても嬉しかった。
助手席の扉を開け、初めて助手席に座った。
隣の彼は、私がシートベルトを閉めたのを確認して車を発進させた。
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