26人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ、いずみちゃん!!」
彼の字に見とれていた私は、名前を呼ばれて我にかえった。「はい?なんでしょう?」と訊ねると、「泊まり?」と聞かれた。
どうしようか。泊まりたい気持ちは山々なのだけれど。
「...か、考えさせてください。」
少し決めるのに時間が掛かりそうだと思い、私は彼にそう答えた。
すると、彼は含みのある笑みを見せた。
「なんだよ~、すっぴん見せんのが嫌なのか?」
ドツボ突かれてしまった。私が反応したのを見て、彼は更にからかってくる。
「気にすんなって~。どっちかっつったら、すっぴんの方が長く見てきてるんだし~」
確かにそうなのだけれどと思っていると彼が私に顔を近づけた。意地悪な表情の、並びのいい白い歯が光る。
「それに...俺といずみちゃんの仲だろ~?」
そうやって、こっちの気も知らないで。私は少し彼にムカついた。動悸が速くなっているのは、きっとそのせいだ。
「はいはい。とにかく、考えさせてください。」
冷たく彼をあしらうと、「なんだよ、つれねえな~」と豪快に笑って、私の肩をバシバシと叩いた。
さて、どうしたものか。泊まりたい気持ちは山々だけれど、思いを寄せている人にすっぴんを晒したくない。
でも、彼の一言も一理あるのかもしれない。八年近くは、彼はすっぴんの私を見てきたわけだし。
でもやっぱり、その時とは状況がちがうんだよなあ!!!
帰りの電車でも、家に帰ってからも、私は暫く悩み続けた。
最初のコメントを投稿しよう!