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けたたましい汽笛が流れ列車が動き出すと
車内の一番前の席に座る貴婦人は 深いため息を吐いた
「すいません…あなた。 こんな夜逃げのような真似をさせて…」
軍服の男は首をふり
「おまえだけが悪いわけじゃないさ」
そう呟くと目線を移し無邪気に窓を眺める娘の頭を撫でた
「…でも」
今にも泣き出しそうな悲痛な顔を浮かべる妻に夫は精一杯の笑顔で答えてみせた
正木喜一と妻の絹代と娘の美和が住み慣れた東京を離れ
夫の実家に向かうことになったのは、恐ろしい出来事のせいだった
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