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「お父さんも居ないし、先生は怖いし」と、健太は言った。ずっとここに居たいと、旭くんは優しいし、ここは家とは違って温かいから。
捨て子と奇妙な同居生活が始まった。五つ下の健太は簡単な掛け算、割り算も出来ず、簡単な漢字、知らない言葉も多かった。
「ミチクサって何?」
十五にもなった健太が、そう聞いてきた事があった。
「道端に生えた草の事。転じて、途中で他の事をして時間を潰すって意味」
「ミッカボウズは?」
「飽きやすく、長続きしない事」
「ハイシャクは?」
「借りるって事の謙譲語」
「ケンジョウゴって?」
「敬語の一つ。自分や自分に関するものをへりくだる言葉」
「へりくだるって?」
万事が万事こんな感じだった。狭い六畳、炬燵一つに身を寄せ合い、鍋を突き合う自分達はまるで、薄汚いダンボールに包まる捨て犬のようだった。そこは狭く汚く、風を避けるだけで精一杯。けれど、暖かった。互いの体温を、背中越しに感じる事が出来たから。
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