第二章 波紋

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 ホンウィも、王となったからには、亡き父に倣わなければならない。いつまでも悲しみに身を沈めることは、王には残念ながら許されないのだ。別れがたとえ、十歳の幼い年の頃であったとしても――。  小さく息を吐いて、ホンウィは先ほど大臣たちを怒鳴りつけて辞してきた思政殿(サジョンジョン)に向かう。それによる若干の気まずさがあり、足は重いが、この先、王として生きる年月は長い。どんな理由があっても、避けて通れないだろう。  しかし、思政殿の前まで来たところで、ホンウィは歩みを止めた。王個人の執務室の前に、見覚えのある人物が立っていたからだ。 「殿下」  相手も、こちらに気付いたらしい。  キビキビとホンウィに駆け寄り、一礼した。 「イ掌令(チャンリョン)」  相手は、先日、父の死について疑惑を呈しに来た、イ・ボフムだった。 「今、少しお時間よろしいでしょうか」 「何か、分かったのか」 「はい、その……」  言い淀んだポフムは、チラと周囲に視線を投げる。  人がいると言い辛い話題らしい。そう察したホンウィは、ポフムを促して執務室へ入った。 「掛けてくれ」  執務机の前にある丸い机の席を勧め、腰を下ろす。ポフムも、「失礼します」と言い、席に着いた。 「今日は、もう一人の……司諫院(サガヌォン)右献納(ウホンナプ)は一緒じゃないんだな」  すると、ポフムは生真面目そうな顔立ちを、申し訳ないと言うように曇らせた。 「どうしても都合が付きませんでしたので……すみません」 「いや、謝らなくていい。どうしたのかと思っただけだから」  苦笑して返すと、ポフムは「は」と短く言って会釈するように顎を引く。 「それで、何か進展はあったのか」 「進展というよりは……その、申し上げにくいのですが」 「引き延ばしても内容は変わらぬだろう。何だ」  ポフムは、それでも瞬時、躊躇(ためら)うように目を伏せた。しかし、すぐに意を決したのか、目を上げる。 「それでは、恐れながら申し上げます。先代王殿下の御代に、大殿(テジョン)担当だった医女が、死にました」
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