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ホンウィも、王となったからには、亡き父に倣わなければならない。いつまでも悲しみに身を沈めることは、王には残念ながら許されないのだ。別れがたとえ、十歳の幼い年の頃であったとしても――。
小さく息を吐いて、ホンウィは先ほど大臣たちを怒鳴りつけて辞してきた思政殿に向かう。それによる若干の気まずさがあり、足は重いが、この先、王として生きる年月は長い。どんな理由があっても、避けて通れないだろう。
しかし、思政殿の前まで来たところで、ホンウィは歩みを止めた。王個人の執務室の前に、見覚えのある人物が立っていたからだ。
「殿下」
相手も、こちらに気付いたらしい。
キビキビとホンウィに駆け寄り、一礼した。
「イ掌令」
相手は、先日、父の死について疑惑を呈しに来た、イ・ボフムだった。
「今、少しお時間よろしいでしょうか」
「何か、分かったのか」
「はい、その……」
言い淀んだポフムは、チラと周囲に視線を投げる。
人がいると言い辛い話題らしい。そう察したホンウィは、ポフムを促して執務室へ入った。
「掛けてくれ」
執務机の前にある丸い机の席を勧め、腰を下ろす。ポフムも、「失礼します」と言い、席に着いた。
「今日は、もう一人の……司諫院の右献納は一緒じゃないんだな」
すると、ポフムは生真面目そうな顔立ちを、申し訳ないと言うように曇らせた。
「どうしても都合が付きませんでしたので……すみません」
「いや、謝らなくていい。どうしたのかと思っただけだから」
苦笑して返すと、ポフムは「は」と短く言って会釈するように顎を引く。
「それで、何か進展はあったのか」
「進展というよりは……その、申し上げにくいのですが」
「引き延ばしても内容は変わらぬだろう。何だ」
ポフムは、それでも瞬時、躊躇うように目を伏せた。しかし、すぐに意を決したのか、目を上げる。
「それでは、恐れながら申し上げます。先代王殿下の御代に、大殿担当だった医女が、死にました」
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