第三章 最初の忠臣

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「ユウォル様」  ポフムに呼ばれ、入ってすぐ左手にある扉の中へ足を踏み入れる。 「検死は終わっております。彼女らが亡くなったのは、昨日の夜から今朝に掛けてだそうです」  示された先には、白布の掛けられた遺体が三体、安置されていた。 「見ても構わないかな」 「どうぞ」  許可を得ると、無造作に布をめくる。  向かって一番左手の女性の顔を見て、ホンウィは、その痛ましさに表情を歪めた。とても、見られたものではない。説明するのも惨い顔になっている。 「……ひどいな……」  続いてめくった、中央に横たわっていた女性は、検死を終えて清められた所為か、別段変わったところはないように思えた。右端の女性も同様だ。  三人は、清潔な白い上衣(チョゴリ)とチマ〔くるぶしまで丈のある巻きスカート〕を身に(まと)っている。 「彼女たちの名前は?」 「はい。向かって一番左が、大殿(テジョン)担当の医女長で、陰智彦(ウム・ジオン)。年は四十。真ん中が韓相鈺(ハン・サンオク)、二十五歳。向かって一番右端が呂嘉蓮(ヨ・ガリョン)、二十三歳。ヨ・ガリョンは先頃、医女の最終試験に合格し、内医院(ネイウォン)〔王室の医療機関〕へ配属されたばかりだったとか」 「……そうか……」  いよいよ、本格的に仕事を始めるところだったのだろうに。  三人とも、ホンウィは初対面だったが、突然命を絶たれた無念さは、察して余りある。 「……三人とも、不審死に間違いないな?」  確認するまでもない、というのはウム・ジオンの遺体を見れば明らかだったが。 「はい」 「ハン・サンオクとヨ・ガリョンの致命傷は?」 「ハン・サンオクは心の臓を一突きにされ、ヨ・ガリョンのほうは逆袈裟に斬り上げられていたそうです。もっとも、私は直接見たわけではありませんが」  開国以来、儒教を国是としたこの国では、男女の別が厳しくなってきた側面がある。  今回のように、女性の被害者が出た場合でも、男が、伴侶でもない女性の身体をみだりに見るようなことは許されない。そこで、医女が検死をしたり、五衛(オウィ)〔主は国防機関。警察業務兼業〕に勤める茶母(タモ)〔官公庁に属する下働きの女性〕が捜査に関わったりもする。
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