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第一幕 幽かなる亀裂:第一章 疑惑
王族というのは、何とも因果なものだ。
特に、王の跡継ぎなんてその最たるものだと、ホンウィは痛感している。
この年で、碌々親の死を悼む時間さえ与えられないなんて、どういう前世の業だろうか。
たった十歳で父を失くした少年が、即時王座で仕事をすることを強いられ、ゆっくり泣くことも許されないなんて、真剣に何か間違っている気がする。
これで母が生きていれば、少しは心持ちが違っただろう。けれど、母もホンウィの生後三日で世を去っていた。産後の肥立ちがよくなかったらしい。
「――下」
この二日の間に行われた葬儀の差配やら、その他の何やかやに、ホンウィは一切携わっていなかった。
ただ、父の遺体の枕辺で、泣くか呆然とするかしていただけだ。
その間に、姉や養母、父方の叔父たちが代わる代わる傍にいてくれた気もするが、その辺の記憶は曖昧だった。
「殿下」
ハアッ、と子どもらしからぬ重い溜息を吐くのと、そう呼び掛ける声に気付くのとは同時だった。
「殿下?」
しかし、それが自分を呼ぶ声だと理解するには、もう少し掛かった。
「殿下。大丈夫でございますか?」
「……え?」
顔を覗き込むように言われて目を上げると、声の主である内官と目が合った。瞬間、慌てて相手は瞼を伏せる。
臣下は通常、王と目を合わせることはとんでもない無礼ということになっているのだから、当然の反応だ。
「あ……あ、悪い。俺……いや、私のことか」
つい先日まで『世子様』と呼ばれていたものだから、王を意味する呼称にはまだ慣れない。
「はい、殿下」
何事もなかったように小さく頭を下げた内官は、言葉を継いだ。
「司憲府の李甫欽掌令と、司諫院の趙元禧右献納がお目通りを願っておりますが」
「イ・ボフムとチョ・ウォヌィ?」
ホンウィは眉根を寄せた。どちらも聞いたことがない名だ。
司憲府は官吏の不正取り締まりや冤罪防止の役割を担っている部署、司諫院は王への諫言を担当する部署である。掌令と右献納はどちらも役職名で、前者は品階・従四品、後者は正五品に相当する。
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