序幕 崩御

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序幕 崩御

 バサリ、と重たい音を立てて、白い(ころも)(ひるがえ)る。夕闇に沈み始めた薄暗がりを裂くように、空に近い場所で、その白が舞った。 「王の魂よ! お戻りください!」  叫びと共にまた一つ、薄闇の中で踊る白を、少年は目を(みは)って眺める。 (――嘘だ)  この儀式の意は、明らかだ。王が――少年にとっては父親が亡くなったということを、端的に示す現実だった。  だが、少年はそれを簡単には受け入れられなかった。  確かに、父王は今朝も顔色が優れなかった。 『大丈夫だ、弘暐(ホンウィ)。いつものことだろう?』 『威張ることじゃないだろ、父上』  おどけたように言った父を詰ったのは、ほんの半日と少しだけ前のことだというのに。 (こんなに、急に) 「世子(セジャ)〔皇太子〕様」  こちらに気付いた内官(ネグァン)〔宦官〕の一人が駆け寄ってくるのと、白い衣が三度(みたび)宙を舞うのは、ほぼ同時だった。  王の居所である大殿(テジョン)の屋根から衣が放たれ、それを下で待っていた内官が受け取る。衣を抱えた内官が急いで大殿へ入っていく後ろ姿に、ホンウィは迷わず続いた。 「世子様!」  背後から、止めるような声がするが、構わなかった。  内官と女官たちが頭を下げる日常の光景が、今は遠い。女官の手で開かれる扉の中に、勢いよく駆け込む。 「世子様」  扉に背を向けていた大臣たちが、一斉にこちらへ視線を向けた。  彼らの向こう側、部屋の一番奥に布団が敷かれている。その布団に横たわった人物に、内官が抱えていた衣をそっと掛けた。  枕元には、王の主治医である御医(オウィ)が、悄然(しょうぜん)(こうべ)を垂れている。
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