第一幕 幽かなる亀裂:第一章 疑惑

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「……とにかく通してくれ」  両者とも、堂下官(タンハグァン)以下という身分で、本来なら王への謁見を願い出られる地位ではない。  だが、今は先王の崩御に関連して、担当医たちを取り調べているはずだ。その件で訪ねて来たのなら、追い返す必要も理由もなかった。  その辺りを、目の前の内官も考えたのだろう。何か言いたげな顔をしたが、余計なことは口にせず、(うやうや)しく頭を下げ、しずしずと後退した。  程なく、彼と入れ替わるように現れた二人の男は、青い官服を身に着けている。  ちなみに、赤い官服は堂上官(タンサングァン)で、宮殿へ出入りできる身分である。 「掛けてくれ」  ホンウィは、立ち上がりながら、執務机の前にある丸い机を示した。  とは言っても、父が使っていた執務机は、ホンウィにはまだ大きい。椅子の上にそのまま座っても、机の上で執務をこなす際に、無理な姿勢になってしまう。  その為、何冊か書物を重ねた上へ座っていたものだから、ほとんど飛び降りるようにして椅子から立った途端、書がバサバサと派手な音を立てて崩れた。  二人の男は、それぞれに無表情を貫こうとしているようだったが、成功しているとは言い難い。一人は唇の端が震えているし、もう一人は目が泳いでいた。  ホンウィはホンウィで、以後は布で書を固定してから座ろうと脳内でだけ反省し、無言で移動した机の前の椅子に座り直す。  ホンウィが座るのを待って、二人の男も腰を下ろした。 「……用件の前に自己紹介してくれるか。二人とも、会うのは初めてだったよな」  言うと、二人はチラリと互いの目を見交わし、ホンウィに視線を戻す。 「申し遅れました。司憲府(サホンブ)掌令(チャンリョン)、イ・ボフムと申します。先の殿下には、大変お世話になりました」  ホンウィに近いほうへ座した男が、頭を下げる。  年の頃は、四十代半ばだろうか。謹厳実直、という言葉を絵に描いたような容貌の男だ。 「司諫院(サガヌォン)右献納(ウホンナプ)、チョ・ウォヌィです」  続いて、彼の隣に座していた男も顎を引くようにして顔を伏せた。
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