第一章

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 まったくの偶然だった。  いっそ運命を感じた。  だから孝頼は、いつか相良堯頼の足跡を辿る旅に出ようと決意した。決意してからの自分の集中力は、むしろ気味が悪いくらいだった。何かが憑いていたと言われても信じてしまうほど、疲れ知らずで動きまくっていた。  そこまでして親の影響から逃げたかったのか、と問われれば、それは否定できないだろう。親に頼めば旅費はもちろん、現地での専属運転手やガイドだって手配してもらえただろう。  相良家とは――この時代のこの相良家は――それくらいのことは容易い家なのだから。  そして自分も、そんな環境に甘えてきていた。  既に就職先も決まっている。父親の経営する会社に入るのだ。そしてゆくゆくは、自らも社長を継ぐことになる。  小さな頃から――産まれたときから、そう親に言われ続けていた。  だから今回、孝頼は、絶対に親には頼りたくなかった。  自分で見つけた道を、自分で進んで行きたかった。  そういう人生を、この旅から始める。そういう意思表示のつもりだった。  そのため孝頼は、20歳になってからの5ヶ月間、親に秘密でアルバイトを始め、学校の勉強や、独自の相良家の研究をする日々を過ごし続けてきた。  そして今、ようやくここに来られた。  伊佐市は、相良堯頼が死んだ地だ。  人吉で産まれた相良堯頼は、険しい峠を越え、大隅国菱刈山野――今の伊佐市大口山野で死んだという。  相良氏について纏められている『球磨郡誌』には、要約すると、次のように記載されていた。
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