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実際に、ダウンフォースや空気抵抗を一才受けずに進んでいく、しかも追い風を受けながら、プロ自転車レーサーのエチェバリア乗りやスクーターと同じ速さで進んでいく。
濡れた髪は、一切乱れず既に乾いていた。
母親の言い付けなど、悪気なく守らない、いつもの風景。
普通なら、絶対に間に合わない時間に家を出たにも関わらず、通学電車に間に合って、いや、間に合わせてしまう。
ホームを、歩く彼女は、強烈な電車の風を受けてもスカートが、捲り上がる事もはためく事も無い。黒曜石
のような瞳に一点の曇りもなく、涼やかな表情で前だけを見ている。
彼女の周囲の不思議な現象は、魔法と呼ばれている、ものである。彼女は、由緒正しい魔女直系の娘であった。
思うだけで風が起こり、願うだけで気圧も変化していく、まるで風の精霊達が力を貸してくれるように。
『5度寝は、かなりバッドだったわね』
『まー、遅いわよギッリッギリよ』
「ごめーんミッチ、布団が温か過ぎて困ってるの、許してあげてマル」
『そんな事、言ってると乗り遅れるわよ』
ホームの壁に依り掛かり頬を膨らます、綾見稚子は、いつも待たされる側である。
遅刻しても本気で怒ったことは、1度もないおっとりした彼女は、舞愛の大親友だ。
無事目的の電車に乗り込んだ、いつもの満員電車の中では、たわいの無い世間話をする。
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