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と言ってはぐらかされた。いつものように猫耳風に髪を結った若奥様は、そのままニャハハハ、にゃまむぎにゃまもめにゃまにゃまご、にゃりゃのにゃりゃずけにゃらにゃらにゃつお、と、謎の呪文を唱え、ニャゴニャゴ笑いながら黒のスクーターに乗ってどこかへ行ってしまった。今日の晩御飯はぶりの照り焼きだと、漠然と私は思った。季節外れのカツオは高いのだ。そんな夫婦の関係を、私はお互いがお互いの自由を尊重し合っているからこその仲だろうと勝手に推測している。その証拠に、先生は若奥様のことを、若奥様は先生のことを、私が考え、想定していた範囲よりもひどく、知らなさ過ぎていたのだ。だが、だからこそ、彼ら彼女らはうまくいっているのであろう。
気づくと、先生もあの、大きな平屋から出ていた。木に将棋盤がなくなっているところを見ると、軍配は先生に上がったようだ。あとでほめたたえておかないといけない。私はようやく、誰もいなくなった、ただだだっ広いだけの平屋に足を踏み入れた。手中がどうも熱いと思って、ずっと握っていた手を開くと、昨日若奥様が、気まぐれに回したガチャポンで手に入れたのにゃ、と言っていた、蚊を呼び寄せる香が三和土に落ちて、灰で隅にシミを作った。すると、というかやはり、無間にあると思われるあちこちの部屋と、夢幻に広がる外の世界から、一匹、二匹と蚊が飛んできた。蚊れらは一瞬目を離したすきに蚊蚊蚊と笑って蚊柱が出来上がっていた。
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