銀杏の木

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俺はずっと由美のことが好きだった。中2になって由美が転校するまで、でも、俺は小心者だから告白何てしなかった。振られるのを自分のプライドが許さなかった。由美はとても可愛かったからいろんな人からモテたけど決して、誰でもいいから付き合うなんていう軽いことをしない人だった。多分好きな人がいたんだろう。中2の秋に由美が転校するという話を聞いた。俺は、恥ずかしがって面と向かってさようならと好きだったことを伝えることができなかった。そのまま由美は転校した。俺は後悔した。なにも言えなかった自分を責めた。 そして時は過ぎた。早かったのか遅かったのかよくわからない。高校では、何人かから告白されて、それなりに恋愛をしたつもりだが、皆の笑顔は由美には勝てない。そんなことを思う俺は最低だなとおもいながらもう叶うはずのない恋を思い出すことがよくあった。 大学入学。もうその頃は由美のことはほとんど記憶の底に沈んでしまって、もう二度と浮上してくることはなかったはずだった。俺は写真が好きだったから、写真サークルに入った。ある春の日、桜が満開に咲いている中俺は自分の家のとなりにある銀杏の並木道の写真を撮っていた。皆が桜ばかりを見ているなか俺は銀杏が春に花を咲かすのを知っていた。由美が銀杏の花言葉を聞いたあと銀杏について調べたからだ。決して桜のように綺麗な花を咲かすわけではないが、みんなには知られずにひっそりと花を咲かす銀杏に心を奪われていた。そのときにとった写真のなかに1枚俺のお気に入りの写真がある。沢山の銀杏の間をしっかりとした歩幅で堂々と歩く女の子の後ろ姿が写っている写真だ。この写真は、大きめの展覧会で飾られるほどの好評をもらった。そして、その1週間後暇だったので、いつもはとらない授業に友達と出ることになった。そのとき俺は見覚えのある笑顔で話 す女の子を見かけた。一瞬でわかった。由美だ。 由美は俺に気づいてくれたようで、巧くん?と話しかけてきた。それ以来俺は由美とまた仲良くなった。俺が由美のことを好きになるのに時間はかからなかった。     
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