第十四話「明るみ」

30/35
406人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
    5  リビングのソファに座りメールチェックをしていた一砥は、届いたばかりの花衣からのメールを読み、眉を顰めた。 『ごめんなさい。今夜は桜井家に泊まります。夕飯は冷蔵庫に用意しているので、一人で済ませて下さい』 「……マジか」  普段は使わない砕けた独り言が漏れ、一砥はどぅとソファの背凭れに全身で寄り掛かった。  事故から九日。  一砥が退院したその日から、花衣は怪我人の恋人を甲斐甲斐しく世話し、さらに引っ越しの準備も同時に進めと、非常に多忙だった。  だから一日くらい、もうすぐこの地を離れる叔母夫婦と、家族水入らずの時間を過ごすのもいいだろう。  足の怪我も痛みはほぼなく、次の検診で異常がなければ、出社許可も下りるだろう。  たかがむちうちと捻挫程度の怪我で、一週間以上彼女とべったり一緒にいられたのだから、むしろ上等の休暇だったと言える。  週明け早々、桜井夫婦は鎌倉に、花衣はこのマンションへ引っ越して来る。  そうすれば今度こそ完全に、彼女と朝から晩まで一緒にいられる日々が始まる。  そう自分を納得させ、一砥は倒していた上体を起こし、メールの返事を送った。 『分かった。叔母さん達によろしく』     
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!