第十四話「明るみ」

2/35
406人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
 しかし家政婦時代に彼の性格を掌握していた花衣は、そんな男を気分転換させる術も心得ていた。  朝の家事を終え、花衣はエプロンを外しながら、リビングで退屈そうにしている一砥に話し掛けた。 「一砥さん。もう三月も半ばで結納まで一ヶ月ですけど。香奈さんが、私に振袖を用意するって言ってくれているんです。だけど結婚したらもう着られないし、私はレンタルでいいと思うんですけど、どう思いますか」  不自由な右足を持て余し、ソファに寝転がってタブレットでニュース記事を読んでいた一砥は、その言葉にすぐに反応した。 「成人式ではどうしたんだ」 「レンタルで済ませました」 「なら今回もレンタルでいいだろう」  一砥は倒していた背を起こし、ついでにタブレットもテーブルに置いた。首のコルセットは昨日外れた。 「うちの会社の取引先に、高級呉服も扱っている会社がある。社長とも懇意にしてもらっているから、結納の着物もそこに頼めばいい」 「じゃあそうします」  花衣はにっこり笑って頷いた。 「それと、以前結納式の話をした時、雨宮家は関西式だから、花嫁側は結納品は用意しなくていいって仰ってましたけど、本当にそれでいいんですか?」 「ああ」 「結納返しもしなくていいって……」     
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!